Day Dream Believer

桐生大介が目隠しを外されると、そこは一面真っ白で清潔な壁と、
簡素な事務机と数脚の椅子しかない、がらんとした空間だった。
その机の向こうには、艶やかな長髪とセンスのいいスーツを着ているが、
どことなく神経質に見える目をした女性と、
スマートな体に、ぴったりとした黒いセーターを着た、
15、6歳くらいの人間が座っていたが、
その中世的な顔から、
桐生はそいつが男か女か、すぐには分からなかった。

桐生は、フリーのジャーナリストと言えば聴こえはいいが、
実際は超常現象をあることないこと面白く書き立てるだけの、
3流雑誌の穴埋め要員だった。
こんな仕事をしていると、カルト集団に目を付けられたり、
たまにはこんな風に拉致されることもあるのだが、
体力には自身があったし、元々飄々とした性格なので、
大事には至った事がない。
それに、自分自身の経験したことは、
最もネタにしやすい。
今も周りを気にしない態度で、
興味が溢れるままに部屋中を見渡していた。

これまで自分が拉致された所と言えば、
いかにも「洗脳しまっせ!」という感じの狭い部屋で、
一日中信者に説得されたり、
ピンクフロイドの「The Great Gig in the Sky」
を大音量で聞かされた所があったり、
床一面にビニールシートの敷かれた、
小汚いアパートの一室で、
延々数十人のお経を聞かされ続けた所があったり、
まさにいかにもな所ばかりだった。

それに比べると、ここは明らかに異常だった。
ここは今までのような怪しい場所ではなくて、
どちらかと言うと、病院の一室に近いような気がした。



続かない。夢だから。